ワイヤー矯正とマウスピース矯正の違いについて、よく質問があります。
簡単に説明すると、
ワイヤー矯正は、歯に付けられたワイヤーの引っ張る力で歯を移動させるのに対し、
マウスピース矯正は、歯を囲むマウスピースの押さえる力で歯を移動させます。
移動させるメカニズムが異なるので、それぞれいいところ、悪いところがあります。
マウスピース矯正の優れている点は、一番後ろの歯を後方に移動させることができる点です。また、歯を押し下げることは得意です。
これには限界があるのですが、ワイヤー矯正で同じ動きをしようと思うとワイヤー以外の補助装置が必要になります。
一方、マウスピース矯正には、不得意なこともあります。
ねじれて生えてきた歯を、なおすことと、歯を引き上げることは不得意です。
ワイヤー矯正は、マウスピース矯正とは逆で、歯を引き上げることは得意です。
ねじれた歯はワイヤーだけでなく、補助装置を使うことで効果的になおせますが、マウスピース矯正に比べ、ワイヤー矯正はその自由度が高いため、ワイヤー矯正の方がなおしやすいです。
また、マウスピース矯正と比較して、ワイヤーのみでは、一番後ろの歯を後方に移動させることはできません。
どちらの矯正方法も、
ニュートンの第三法則:ある物体に力を加えて動かそうとするときに、その反対方向の力が力を加える物体に作用する
という原理から逃れることはできません。
ワイヤー矯正はブラケットでワイヤーと繋がった歯全体が相互に作用します。
一方で、マウスピース矯正では、任意に動かす歯と力を加える歯が設定できるので、一番後ろの歯を動かすことができます。
これは、メリットでもあり、デメリットでもあります。
ワイヤー矯正は、ワイヤーで繋がった歯がいわば、一塊として動きます。一塊として動くため、真っ直ぐに並べるまでは得意なのですが、最後の微調整が一塊であるが故に、他の歯にも力が作用して難しい処置になります。
マウスピース矯正は、個々の歯を独立させて動かすことができるのですが、動きが悪い歯や不得意な動きで予定通り動かなかった場合は適切な力が、その歯に作用しなくなるので、予定通りの歯の動きにならず、予期せぬ結果を招くことになります。もし、マウスピースと歯の適合が悪かった場合は、間接的な装置で修正したり、もしくは、すぐにマウスピースを作り直さないといけないので、定期的な歯科医師による専門的なチェックは必須になります。また、マウスピース矯正も複雑な症例では、最終的な噛み合わせがマウスピースに依存してしまうため、微調整が難しいです。しかし、噛み合わせをあまり変化させない症例では、その特性からワイヤー矯正よりも優れていると考えます。
言わずもがな、最も大きな違いは、取り外しができることです。しかし、これはメリットでもあり、デメリットでもあります。マウスピース矯正では、指示された時間を守り装着しないといけません。サボってしまうと、歯は全く動きません。歯は持続的な力を加えることによって、はじめて動くからです。よって、指示された時間はつけているけど、着脱回数が多い場合も、同様に歯の動きが悪くなってしまいます。
一方、ワイヤー矯正は歯に装置がつく、わずらわしさが難点ですが、持続的な力が働くため、このような意図しない失敗はありません。
詳しい話をすると、まだまだ違いはあるのですが、まとめますと、
ワイヤー矯正とマウスピース矯正の優劣はつけることができません。その患者さんの状態によって選択されるべきです。それは、歯を失ったときに、インプラント(人工の歯根を骨に埋めて歯を入れる処置)がいいか、ブリッジ(失った歯の両隣の歯を削って橋がけのように連なった被せの歯を入れる処置)がいいか、入れ歯がいいかという問いに似ています。検査をして、診断して、はじめて明らかになることです。なので、矯正を考えられている方は、どちらが向いているのか、またそのメリット、デメリットを説明してもらえる医院で適切な矯正治療を行なっていただけたらと思います。